top of page

イギリスの鉄道はなぜ再び公的所有へ?Chiltern Railwaysから見る英国鉄道改革

6 日前
読了時間: 7分

更新日:3 日前

イギリスで鉄道を利用していると、Northern、LNER、Avanti West Coast、TransPennine Expressなど、路線によってさまざまな鉄道会社の名前を目にします。


日本の鉄道に慣れていると、「なぜこんなに運営会社が分かれているのだろう?」と感じることもあるのではないでしょうか。


そんな英国鉄道が、今、大きな転換期を迎えています。


2026年9月20日、Chiltern Railwaysの旅客サービスが公的所有(public ownership)へ移行しました。


これはChiltern Railwaysだけの出来事ではありません。英国政府は、Department for Transport(DfT)が契約する主要な旅客鉄道サービスを順次公的所有へ移し、その先にGreat British Railways(GBR)という新しい公的組織を設けて、列車運行と鉄道インフラをより一体的に管理する改革を進めています。


1990年代に大規模な民営化を進めたイギリスの鉄道は、なぜ約30年後の今、再び公的所有へ向かっているのでしょうか。





Chiltern Railwaysが公的所有へ

Chiltern Railwaysは、London Maryleboneを起点に、Buckinghamshire、Oxfordshire、Warwickshire、West Midlands方面などを結ぶ鉄道サービスです。


2026年9月20日から、Chiltern Railwaysのサービスは政府所有の鉄道運営グループDfT Operator Limited(DFTO)のもとへ移りました。政府の最新案内では、South Western Railway、c2c、Greater Anglia、West Midlands Trains、Govia Thameslink Railwayに続く移行として位置づけられています。


さらに2026年12月から、平日に1日25本の列車を追加し、約10,000席を増やす計画が示されています。LondonとBirminghamを結ぶChiltern Main Lineでは、日中の運行本数増加も予定されています。


新型車両の追加や、既存車両のWi-Fi、電源、USB充電設備の更新、駅設備の改善なども計画されています。

ただし、公的所有へ移った翌日から鉄道そのものが突然別物になるわけではありません。Chiltern Railwaysというブランドや日常の運行は継続しながら、今後の鉄道改革へ段階的に組み込まれていきます。



イギリスの列車



そもそもイギリスの鉄道はなぜ民営化された?

現在の英国鉄道を理解するには、1990年代まで少し遡る必要があります。


かつて英国の鉄道はBritish Railという国有組織によって運営されていました。ところが1990年代、鉄道の民営化が進められ、それまで一体的だった仕組みが複数の組織へ分かれていきました。


旅客列車の運行には民間企業が参入し、線路などのインフラ、列車運行、車両所有などを異なる主体が担う現在の構造が形成されました。


つまり英国の鉄道民営化は、単純に「国営鉄道を一つの民間会社へ売った」というものではありません。

複数の企業・組織が異なる役割を担当する仕組みになったことが、現在の英国鉄道を理解する重要なポイントです。





英国鉄道の仕組みはどうなっている?

英国鉄道では、乗客からは見えにくいところで複数の組織が関わっています。


線路や主要インフラ:Network Rail

旅客列車の運行:Train Operating Companies

鉄道車両の所有:Rolling Stock Companies


さらに旅客サービスには、政府との契約に基づいて走るサービスだけでなく、自ら商業リスクを取って運行するopen access operatorも存在します。


そのため一言で「イギリスの鉄道」と言っても、線路・車両・列車運行のすべてを同じ会社が管理しているわけではありません。運行トラブルや設備問題が起きた際に、複数の組織間で調整が必要になることもあります。


今回の改革では、この分かれた仕組みをどのように一つの鉄道システムとして機能させるかが重要なテーマになっています。


イギリスの線路から見える風景



なぜ再び公的所有へ向かっているのか

現在の改革で政府が掲げている大きな目的の一つが、track and train、つまり「線路と列車」をより一体的に運営することです。


政府はGreat British Railwaysを、鉄道全体のsingle directing mind(全体を方向づける中心的な主体)と位置づけています。


今回の改革は「民営か国営か」という所有形態だけの議論ではなく、分散している責任と意思決定をどう整理するかという構造改革でもあります。


一方で、政府自身も、公的所有そのものがサービス改善を自動的に保証するわけではないという説明をしています。遅延、運休、運賃、混雑など、利用者が日常で感じる問題が改善するかどうかは、今後の運営実績を見る必要があります。





Great British Railwaysとは?

この改革の中心となる予定なのがGreat British Railways(GBR)です。


政府案ではGBRが、現在Network Railが担うインフラ管理と、主要な旅客鉄道サービスをより統合された形で扱うことになります。


ただし、2026年9月21日時点では、GBRを本格的に創設するRailways Billはまだ成立していません。法案はHouse of LordsでCommittee Stageにあり、9月16日にも条文ごとの審議が行われました。

つまり、旅客サービスの公的所有化はすでに進んでいる一方、GBRという新しい鉄道全体の仕組みはまだ議会審議の途中です。





すべての鉄道会社が公的所有になるわけではない

今回のニュースで誤解しやすいのが、「イギリスの鉄道がすべて一つの国営会社になる」と考えてしまうことです。


現在進められている移行の中心は、DfTが契約する旅客鉄道サービスです。一方、Lumo、Hull Trains、Grand Centralなどのopen access operatorは異なる仕組みで運行しています。


また、ScotlandやWalesにはそれぞれの公的鉄道運営の仕組みがあります。車両そのものについても、民間のRolling Stock Companiesが所有し、運行会社へ貸し出す形が広く残っています。


そのため、日本語では「再国有化」とまとめられることがありますが、実態はもう少し複雑です。


主要な旅客サービスを公的所有へ移しつつ、線路と運行をGreat British Railwaysのもとでより統合していく改革と捉えると分かりやすいでしょう。



遠目から見えたイギリスの線路の風景



利用者にとって何が変わる?

では、実際にイギリスで鉄道を利用する私たちには何が変わるのでしょうか。


短期的には、Chiltern Railwaysが公的所有になったからといって、駅や列車の利用方法が突然大きく変わるわけではありません。これまでと同じように切符を購入し、列車を利用します。


一方で政府は、公的所有のオペレーター同士の連携強化や、運休時に別の公的所有サービスを利用しやすくする仕組みなどを進めています。


今後GBRが成立・稼働すれば、列車運行、線路、ダイヤ、利用者向け情報などをより統合された形で管理する方向に進むとされています。


ただし利用者にとって本当に重要なのは、所有者の名前よりも「列車が時間通り来るか」「運休が減るか」「料金やチケットが分かりやすくなるか」です。


Great Western Railwayは2026年12月13日に公的所有へ移行する予定で、DfT契約の旅客サービスの移行プログラムは2027年末までに完了する見込みです。




Leeds Stationの駅構内



まとめ|英国鉄道改革の現在地と今後の変化

2026年9月20日、Chiltern Railwaysの旅客サービスが公的所有へ移りました。これは単独の鉄道会社のニュースではなく、英国鉄道全体を組み替えていく大きな改革の一部です。


1990年代の民営化以降、列車運行、線路、車両などを複数の主体が担ってきた英国鉄道。現在は主要旅客サービスの公的所有化を進めながら、その先にGreat British Railwaysを設け、線路と列車をより一体的に運営する方向へ進んでいます。


「国営か民営か」という言葉だけで見るのではなく、誰が線路を管理し、誰が列車を走らせ、誰が鉄道全体の判断をするのか。


この視点を持つと、これから数年間続く英国鉄道改革のニュースがずっと理解しやすくなりそうです。


📘 鉄道は、ロンドンだけでなく地方都市同士をつなぐ英国生活の重要なインフラです。『ロンドンじゃないイギリス』では、こうした移動や街の距離感も含め、ロンドン中心では見えにくい英国の日常を紹介しています。 新刊紹介はこちら

※イギリス在住の方へ:同じ書籍はAmazon UKでも販売しています。UK国内は送料無料です。 Amazon UKで見る(お住まいの地域のAmazonで本書を検索すると、送料が無料になる場合があります。)


コメント


bottom of page